10.身だしなみ

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1995年10月

さて、僕たち馬は生き物だから、一日中厩舎の中にいたら退屈どころか、運動不足で病気になっちゃうよ。休日なんかSSさんやSKさんがやってきて運動できるけど、平日はそうはいかない。それで、担当指導員達が、毎日乗ってくれて運動をするんだ。

砂浴びしたいよ〜普通は鞍をつけて人が乗り、走り回って運動するんだ。でも、鞍をつけて運動をする前に馬を落ち着かせる時や、あるいは病気上がりだとか、体調不良の馬は鞍をつけないで運動をすることもある。頭駱(トウラク:頭部につける皮の器具。騎手の手綱が繋がっているんだ)に、長い紐(調馬索と言うんだ)をつけて、人が中心になって鞭で僕たち馬を追いながら、馬をぐるぐる回転させて運動をさせるんだ。紐付きのラジコン飛行機を想像すれば当たりかな。これを調馬索(運動)という。覚えておいてね。

人間の皆さんも、馬が砂浴びをするのを見た事有ると思うけど、あれって僕たち馬にはとっても気持ちいいんだよ。運動した後とかは特に、汗まみれ(僕は特に汗っかきなんだ)だから、砂浴びは絶対にしたいよね。いつも、ほとんど厩舎の中だからストレス解消にも持ってこいだね。

この前、あまりに喜んで念入りに砂浴びをしたら、目の中に砂が入っちゃって痛かったなぁ。目が開けられないんだもの。やっと目が開いたと思ったら、目の中に土が溜まってるって、SSさんが大騒ぎ。指導員チーフを呼んで、大騒ぎで目薬を入れてくれた。僕も始めてだったから怖くって、オドオドしながら治療してもらったけど、土が取れて良かったよ。

それ以来、二度と砂浴びの時には目を土にあてないよう注意しているんだ。SSさんは、砂浴びをしている僕の首が以前より曲がって起きてるねって、笑ってる。僕は真剣なんだぞ。


私、キレ〜イ!?乗馬クラブの馬だって身だしなみは大事。普段は、タテガミやしっぽの長さを切り揃えてくれたり、タテガミの毛をすいてくれるんだよ。

タテガミはあまり、毛が多いとみっともないので余分な毛を引き抜くんだ。見た目は痛そうだけど、僕たち馬にとってはそんなに痛くない。でも、頭のテッペン近くはちょっと怖いけど。しっぽの毛はなかなか生えてこないから抜いちゃううと大変。櫛を通す時も、力を入れずになるべく毛が抜けないように細心の注意でやるのが肝心だよ。最近、オーナーさん、漸くタテガミのすき方を覚えたらしく、きれいにしてくれる。

去年の冬に、乾燥室のバーナーにしっぽを焼かれた馬がいたけど、あれは可哀相だったね。毛が焼けて、まるでとねっ仔のしっぽみたいに、短くなってしまったって、オーナーさん泣いてた。また生えてくるまでにずいぶん時間がかかったもんね。

SSさんは今回、タテガミの三つ編みに挑戦。自己流でやったので、あまり美しくないけど、まあいいか。右の写真は、その出来栄え。運動した後なので、留めてるゴムもずれてるし、僕も哀れな姿だなあ。タテガミの編み方は解説本があるから、今度はそれを見て勉強して頂戴ね。


1995年11月

去年の5月以来、僕の面倒を見てくれていたYY君が大阪にテンキンだって。このクラブってテンキンが多いなあ。彼とは付き合って1年ちょっとでさよならだ。大阪はオリンピックパークなんて名前がついて、優秀な人がたくさんいるらしいからYY君も嘱望されているのかな。来年のアトランタオリンピックは無理かも知れないけど、その次でも目指して、頑張ってネ。良い報せ待ってるよ。

後任は、今年の夏頃に東海地区からこのクラブに移籍してきていたTY君だ。YY君よりかなり年上。彼は、馬場馬術が専門の指導員だそうだ。僕に馬場馬術の歩き方なんかを色々と教えてくれるのかな。何だか、楽しみだな。

馬術には大きく分けて、障碍馬術と馬場馬術がある。障碍馬術には、色々なルールが有るけど、要は高いハードルのコースをを速く、落とさずに回れば良い。馬場馬術は、技術と美しさを採点するんだけど、決められた技を美しく見せれば良いんだよ。簡単に言えば、演技している馬が高く浮いているように見えるのが美しいとされているね。 今、馬場馬術界には、レンブラントという凄い馬がいるそうだよ。僕は見た事無いけど、SKさんがビデオで見たって、しきりに言っていた。 どんな馬なんだろう?


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