6.再会

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1993年8月21日

疲れたよーあー疲れた。狭い馬運車に一体何時間だよ。チバって遠いんだなあ。北海道から園田までに比べれば、時間は半分くらいだけど。それにしても、車の多い道ばかりで、乗ってる僕も気疲れしちゃったよ。

三重の乗馬クラブでは馬は30頭そこそこだったけど、こっちは100頭近く馬がいる。すごいなあ。乗馬クラブの会員もたくさんいるようだし、なんだか三重ののんびりした環境の方がよかったなあ。

今日から僕の世話をしてくれる人が決まったみたい。僕の側に来て自己紹介していった。女性の指導員OKさんだ。若い!「これからよろしくね。面倒をかけますね」、という挨拶代わりに、軽く噛み付き攻撃をしてやった。

(-訳者注:獅子舞がカタカタ歯を鳴らしながら踊っている様子を想像してください。あと、馬の耳を反らした姿を想像すれば完璧です)

それにしても今度の僕のオーナーは誰になるんだろう。それが唯一の心配だ。


1993年8月28日

チバに来て1週間。今日は土曜日でクラブは人で一杯だ。ほんとに、賑やかだ。僕はずっとOKさんが面倒を見てくれているんだけど、それだけで何だかつまらない。今日も一人厩舎でのんびり過ごすとするか。

接近し過ぎだよ。噛み付くゾ@@:「マ・ヨ・ちゃん!」

あれれ。どこかで聞いたような声だ。何だか懐かしい声だな。まさかSSさんでは?

@@:「マヨちゃんだーーっ」

やっぱり、SSさんだ!後ろにはSKさん。何だどうしたの?

SSさん:「マヨちゃん。無事に着いたのね。元気だった?おーおー、元気そうじゃない。よかったわ。これからもよろしくね」

わーっ。何だ二人ともチバに移ったのかあ。人が悪いよ。僕はてっきり捨てられたと思っていたんだぞ。ちゃんとそう言ってよね。そーかぁ...良かったなぁ.....

 


1993年9月

チバに移ってから最近、足がむずくてしょうがない。人間なら向うずねの所にカサブタのようなできものが出来ているんだ。何だこれは。初めてできたよ。SSさんも、SKさんもこれは何だか知らないようだ。担当のOKさんに聞いている。

-訳者注:マイヨジョーヌは知らないのですが、人間世界ではこれを繋皸「ケイクン」と言います。ほんとは馬では指なのですが、人間でいうと弁慶の泣き所のところに垢だまりのようなものが出来ます。かゆくも何ともないようですが、肢が汚れたように見えてみっともないです。これは肢を不潔にしている証拠です。運動後、肢を洗うのですが、洗った後、ちゃんと乾かさずに厩舎に入れると出来たりします。また、厩舎を毎日奇麗にしていれば出来るものではありません。ですから、牧場やトレセンでは毎日厩舎の敷きわらを換えているのでケイクンは出来ないでしょう。乗馬クラブでは毎日、厩舎を掃除しますが、敷物のおがくずをすべて入れ替える事も出来ないので、半分から1/3を交換しています。したがって、ボロその他が残り、完全に清潔にはできません。ですから、基本的には四肢を完全に乾かしてから厩舎に入れる事が大切です。また、”ケイクン”を作る事は乗馬人としては恥ずかしいことと言われています。

OKさん:「これは、ケイクンというんですよ。肢をちゃんと乾かさないと出来ます。肢を洗った時に、こうやって擦れば落ちます」(笑い)

SSさん:「ふーん。初めてできたから、良く分からないけれど、ケイクンっていうのね。別に、馬そのものに支障がないのなら良いけど。私も週末は来てやれるけど、日頃の治療はお願いしますね」

OKさん:「わかりました」

幸い、ケイクンは2〜3週間もしたら完治したけど、馬にケイクンを作らせるのは馬を管理する者として恥ずかしいことだということを知らない2人のオーナーさんは、治った事で安心したようだ。乗馬クラブでは、指導員一人で何頭も馬を管理しており、一人ですべてを管理できないので、クラブの会員から有志を募って助手として手伝ってもらっている。彼らの指導も大事なことだ。僕たち馬はちゃんと見ていますよ。ホント。


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