4.穏やかな日々

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1993年3月

SKさんと僕のレッスンどうもSKさんの乗りかたは気に食わない。クラブの馬に乗る時の変な癖がついていて足首をいつも外側に向けている。おかげで拍車が僕のお腹に当たりっぱなしで、痛いったらありゃしない。とうとうお腹の毛が擦り切れて、腹の皮に血が滲んできたぞ。おいおい止めてくれよ。足を真っ直ぐにすれば済むじゃないか。

指導員Oさん:「あいかわらず踵が上がってますね。膝から下全体で馬のお腹を締めるようにするのです。足は馬の体に平行にしましょう。もっと胸を張って、脇を締めなければいけませんよ。足の指示が十分なら拍車は要らないんですけどね」

SSさんと僕女性のSSさんはこの1ヶ月、僕を持て余しているみたいだ。手綱が緩いので全然ハミが当たらないから、僕は自由にし放題だ。僕は首を下げる方が楽だから、指示をしてくれないと首を下げる。するとSSさんは手綱を引っ張られて、前かがみになってしまう。おまけに僕たち馬は極度に怖がりだから、いつ跳ねるか分からない。それで、恐怖心を抱いているようだ。馬に乗るのはふんぞり返るくらいで丁度いいんだよ。

指導員KTさん:「あ〜ぁ。手綱をもっと引いて引いて。手綱が緩いんだよ」

SSさん:「だって、馬が引っ張るんだもの。こっちは力がないから、すぐ前のめりになっちゃうわ」

KTさん:「そんなことだと、馬が暴れたときに制御できなくてすぐに落馬しちゃうよ!」

SSさん:「だめだわ、私。そこの囲いの中で乗ってるわよ」

といいながら、SSさんは乗馬ビギナーが最初に練習する直径10mくらいの丸い囲いの中に移動してしまった。以後数ヶ月、SSさんはこのビギナー馬場のお友達となったのである。


1993年4月

今日は強風が吹いている。乗馬クラブでは厩舎の改造工事が始まって、建築資材がそこらに置かれている。昨日の雨で馬場に置いた機材を覆う青いビニールシートが風にあおられてカサカサ鳴っている。恐い!僕たち馬は極度の恐がりだ。馬場の中に見慣れぬものがあるだけで恐いのだ。あ〜っ、変な音がしてる。恐いよ〜。風でビニールシートが動いただけでも恐いのに音までしてるよ。

このビニールシートのせいで、今日は馬場を暴走した馬が3頭もいたんだ。僕なんかは横っ飛びを2〜3回しただけで済んだけど、SKさんは「恐い!」と、草々に僕から降りて今日の乗馬練習は終了となってしまった。だって、僕本当に恐いんだもの。おとといなんかは風に吹かれたビニール袋が馬場に飛んできたんだ。あいにくレッスン中だったので、馬達がパニックになって2〜3人落馬したなんて聞いたよ。

乗馬クラブでは大声や拍手もご法度だよ。突然の声で僕もびっくりしたことがある。体験レッスンで乗馬が初めての人がよくやるんだ。その時丁度、僕も乗馬レッスン中だったのでSKさんは「うるさいぞ!」って怒っていたよ。

聞くところによると競馬では大声出したり、ゴール前で紙を撒き散らす輩がいるらしいね。そんな人は馬のことを全く分かっていないんだろうな。もっと、馬のことを知って欲しいなと思うよ。


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